Windowsよりも先進的だった!?国産OS「TRON(トロン)」

2024年7月9日

日本発OS「TRON(トロン)」って何!?

現在使われているパソコンのOSは、MacOSなどもあるがほとんどがWindowsである。しかしパソコン以外の組み込み用OSには、日本発のOS「TRON(トロン)」が広く利用されている。

TRONの夢は「どこでもコンピュータ」

TRONプロジェクトは1983年頃、坂村健教授(当時は東京大学助手)が提唱し、開始された日本独自のOS開発プロジェクトであり、「The Real-Time Operating System Nucleus」の略である。日本語で「リアルタイム(実時間)で機器を作動させるOSの中心部分」という意味だ。一般的には分かりやすくどこでもコンピュータ』と表現されていた。

坂村教授は、電球から人工衛星まであらゆるモノにコンピュータが入り込み、ネットワークでつながると予想した。そして、それぞれの機器に組み込まれたコンピュータの動きを統一するために、OSを標準化させるというビジョンを提示した。それがTRONプロジェクトの出発点となった。

このような考えは、現在では「ユビキタス」と呼ばれている。

また、その仕組みは「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれて注目されている。

TRONのサブプロジェクト

TRONプロジェクトは、先述したどこでもコンピュータの実現を目指すため、この6つのサブプロジェクトに分かれて進行していた。

I-TRON(アイトロン)家電機器や産業ロボットなど、あらゆる機械で使用する組込み用OS。
B-TRON(ビートロン)ビジネス・事務処理向け、現在で言うパソコン用のOS。
C-TRON(シートロン)メインフレーム(今でいうとサーバ)用OS。通信ネットワークのセンターの役割を担う。
M-TRON(エムトロン)上記の全体を調整するOS。今でいうところの分散コンピュータに相当する。
トロン電子機器HMI研究会TRONにおける操作性をデザインする。
トロンチップTRON構想を実現するためのハードウェアを策定する。

B-TRON~パソコンOSとしてのTRON~

B-TRONは、「Business TRON」の略で、今でいうところのパソコン向けのOSで、事務処理などに使われることを想定したものである。1985年に坂村教授と松下電器産業(現、パナソニック)の主導でB-TRONの開発がスタートした。

B-TRONは、当時としてはかなり先進的なOSだった。

例えば、当時のOSの多くが文字でコマンドを入力する方式だったのに対し、B-TRONはマウスを使ってアイコンをクリックしソフトを起動する、今のパソコンと同じ方式を実現していた。

そしてB-TRONの開発と同時期に、学校教育へのコンピュータ導入が検討されていた。

1986年、旧通産省、旧文部省の関連団体CEC(財団法人コンピュータ教育開発センター)は、日本の学校教育用標準OSとしてB-TRONの導入を検討した。

このニュースは大きく取り上げられ、多くのパソコン・メーカーが次々に参入した。

そんな中、マイクロソフトのOS「MS-DOS」を使ったパソコン「PC98」シリーズですでに成功を収めていたNECはあまり乗り気ではなかった。

NECは、教育用パソコンの標準化自体にも反対の立場を取っていたが、最終的には、MS-DOSでもBTRONでも動くパソコンを作ることで合意した。

アメリカに潰されたTRON

日本国内では、小学校の教育用パソコンへTRONの導入が決まりかけていたが、そんな矢先、1989年にアメリカからスーパー301条に引っかかるとして圧力がかかった。

1989年4月21にアメリカ合衆国通商代表部(USTR)が発行した、「外国貿易障壁報告書」にTRONが名指しで記載された。

1980年代後半は、日本の経済力が急激に伸びた時期で、アメリカとの貿易摩擦問題が発生していた時期だった。そうした時代背景での出来事だった。

この動きにトロン協会は、USTRに対して文書による抗議を行った結果、1年ほどしてTRONは制裁対象から外れるが、メーカー100社近くがTRONから手を引いた。厄介なゴタゴタに関わりたくなかったのだろう。

結局、実際に学校教育で導入されたのは、PC-9801をはじめとするMS-DOS搭載のパソコンで、TRONは排除されてしまった。

ほかに諸説あるが、TRONがパソコンのOSとして広まらなかった要因はこんな感じである。

I-TRON:組み込みOSとしてのTRON

TRONがパソコンOSとして普及するチャンスは潰されてしまったが、6つのプロジェクトの中で「I-TRON」は現在でも生き残って発展している。

I-TRONは、「家電機器」「ロボット」などに組み込むコンピュータ用のOSだった。

I-TRONの仕様

現在のI-TRONには

  1. 大規模組み込みシステム向け「ITRON2」
  2. 小規模組み込みシステム向け「μITRON」(マイクロアイトロン)

という2つの仕様がある。このうち、μITRONは省エネ・高速処理に優れ、様々な機器に採用されて搭載数世界一のOSに成長を遂げた。

μITRONがここまで発展できた理由として、『仕様が無償で公開されて』『誰でも自由に入手でき』『自由に変更を加えることができた』という点にある。メモリ(記憶容量)が小さく動作速度もそれほど速くないシステムに最適なOSだったからという理由もある。

そして世界標準へ

トロンフォーラムの2018年度調査報告によると、「組込みシステムに組み込んだOSのAPI」でTRON系OSがシェア60%を占めたそうだ。現在では、アメリカの電気電子学会IEEEによるリアルタイムOSの国際標準企画になっており、また世界各国でリアルタイムOSの教科書として採用されている。

坂村教授が望んだ「どこでもコンピュータ」の実現がいよいよ近づいてきている。