どう向き合う?どう守る?偽情報セキュリティ
偽情報(Fake Information)とは、意図的に作られたものや無意識に広まったものなど、事実に基づかない虚偽の情報である。特定の組織や個人に利益や害をもたらすために拡散されることが多く、特にSNSやインターネット上で急速に拡散される傾向があり、さまざまな形で社会に影響を及ぼす。偽情報には、政治的意図や商業的な利害関係を背景とするものや、誤解やうわさが拡大して事実と異なる情報が広まるケースも含まれる。これにより、個人や企業、社会全体が誤解や混乱、不安にさらされる可能性が高まる。
偽情報の種類
偽情報には、主に以下のような種類がある。情報がフェイク(でっちあげ)でなくとも受け手を誤解させる目的は達成できる点や、単にマスメディアを揶揄する目的でしばしば用いられる点から、偽情報・誤情報というふうに表現をわけるのが望ましい。
1. ディスインフォメーション(Disinformation)…意図的に誤解や混乱を引き起こす目的で広められた偽情報のことで、政治的・経済的な利益を得るために流布されるケースが多い。攻撃対象となる組織や個人を意図的に誤解させたり、信頼を失わせたりするために行われる。
2.ミスインフォメーション(Misinformation)…意図せず誤って広められる誤情報のこと。情報提供者が真実だと信じていても、事実確認が不十分なために間違った情報が拡散されてしまう。特にSNSや口コミで広まりやすい特徴があり、真偽の検証が難しい情報に多く見られる。
3. マルインフォメーション(Malinformation)…事実に基づく情報ではあるものの、他者に損害を与える目的で公開される悪意ある情報のことである。たとえば、プライバシー情報や機密情報の暴露などが含まれ、信頼関係を破壊したり、プライバシー侵害を引き起こしたりすることがある。
4. フェイクニュース…ニュース形式をとっているが、事実とは異なる内容で構成された偽情報のこと。偽のニュースサイトやSNSアカウントから拡散され、社会的な混乱や誤解を誘発するケースが増えており、特に選挙や重要な出来事の際に急増する傾向がある。2016年の米国大統領選挙では「ローマ法王がトランプ氏の支持を表明」「クリントン氏を捜査中のFBI捜査官が無理心中」といった偽情報がソーシャルメディアを中心に拡散し、投票に向かう人々を惑わせた。現在も、COVID-19、ロシアのウクライナ侵攻で様々な偽情報・誤情報が飛び交っています。「政治フェイクニュースに接触した人の81.2%が偽情報と見抜けていない」との報告もあがっている。
5. デマ…根拠がない噂や虚偽の情報で、特定の対象に対する偏見や恐怖心を広めることを目的としている。デマはパニックを引き起こすことが多く、災害時や不安が高まる状況で流布されやすい傾向がある。日本では熊本地震の際に「動物園からライオンが逃げた」との偽情報が写真付きでソーシャルメディアへ投稿され、それを信じた人々が動物園や警察へ問い合わせる騒ぎが発生した。
なぜ偽情報が広まるのか
偽情報が急速に広まる背景には、さまざまな原因がある。
1. SNSの拡散力…SNSでは、誰でも簡単に情報を発信・共有でき、また瞬時に多くの人に情報が届くため、偽情報が短時間で広まりやすい環境となっている。SNSのアルゴリズムにより、特定の感情を刺激する情報が広がりやすく、誤情報やデマが拡散しやすい土壌が作られている。
2. 情報リテラシーの不足…情報の真偽を確認せずに共有してしまうリテラシーの不足も、偽情報拡散の一因である。特に、インターネット上の情報を事実として受け止めてしまう人が多く、誤解を招く情報が繰り返し拡散されるリスクが高まる。
3. 感情の喚起…偽情報の多くは、感情を刺激するように作られており、恐怖や怒り、驚きを引き起こす内容であるため、ユーザーが反射的に情報を共有する傾向がある。感情的な情報は、共感や反発を呼びやすく、多くの人に拡散されやすい特徴がある。
4. バイアスとフィルターバブル…自分の信念や価値観に沿った情報を信じやすい「確証バイアス」や、同じ意見や価値観を持つ人同士がつながることで、特定の情報が強化されやすい「フィルターバブル」も偽情報の拡散を助長する。
5. 悪意ある発信者の存在…政治的・経済的な目的で意図的に偽情報を流す個人や組織も存在する。こうした発信者は、相手を貶める目的や経済的利益を得るために偽情報を拡散し、多くの人々に影響を及ぼそうとする。
偽情報から身を守るには
偽情報の拡散を防ぎ、リスクを軽減するためにはどのような対策を立てればいいのか。以下の対策が効果的だ。
1.ファクトチェック…特定の主張によらず、情報が事実に基づくものかどうか検証し、その過程・結果を共有することをファクトチェックという。ただし、害を与える意図や発信者の特定は行わない。情報を受け取った際は、信頼できる情報源を確認し、同じ情報が他のニュースソースや公式機関でも報じられているかを確かめる習慣を持つことが重要だ。また、公式のニュースサイトや政府機関の情報を定期的に確認し、偽情報に惑わされないようにしよう。SNSでは、情報発信者の信頼性を確認することも大切だ。
当事者でなければ、受け取った情報の真偽を断定するすべはないが、小さな事実の積み重ねにより、客観的に見て正しいのか判断することはできる。
様々な機関がファクトチェックの結果を公開しているが、Googleのような身近な検索エンジンを使った閲覧方法もある。Google社のFact Check Toolsにアクセスすると、偽情報・誤情報とファクトチェックの結果を検索できる。また、最新のファクト情報を一覧することもできる。ウェブ検索でもファクトチェックの結果が併記される場合があるが、残念ながら日本語の情報はまだ少ないのが現状だ。
2. 情報リテラシーの向上…偽情報・誤情報へ対抗するには技術だけでなく、人への投資も必要だ。学校や職場で、インターネット上の情報に対するリテラシー教育を行い、情報を集めて多角的に捉え、情報の真偽を判断するメディアリテラシーを身につけることが推奨される。
また、情報リテラシーの備わった人は偽情報を見分ける能力が高いとの報告がある一方で、偽情報を見分ける自信がある人ほど、偽情報を拡散した経験のある割合が高いとの報告もあり、バランスの良いリテラシー教育が求められる。
さらに言えば、リテラシー(知識)だけでなく、トレーニング(訓練)やアウェアネス(自覚)も大切だ。特にアウェアネスの醸成はサイバーセキュリティと同様に難しい課題であり、フィッシングが疑われる電子メールの文面を読むときのように、目にした情報を鵜呑みにせず、偽情報・誤情報ではないかと立ち止まって考えるクセをつけたいものだ。
また、感情的な情報ほど拡散されやすい傾向があるため、情報を目にした際には感情に流されず、冷静に判断することが重要だ。
3.SNSプラットフォームのフィルタリング機能…SNSプラットフォームの中には、偽情報を特定するAI技術や報告機能を強化しているものもある。必要に応じて、偽情報とみられる内容はプラットフォームに通報し、拡散を防ぐ。
偽情報は、事実に基づかない虚偽の情報であり、意図的に誤解を招くものや、誤って拡散される情報まで幅広い範囲にわたる。特にSNSやインターネット上では、偽情報が急速に拡散され、社会に多大な影響を与えることが増えていまる。偽情報への対策として、情報リテラシーの向上、信頼できる情報源の確認、SNSのフィルタリング機能の活用など、社会全体で偽情報のリスクを抑える取り組みが重要だ。










